日時: 2018年7月17日(火) 17:00~18:0015:30~16:30
場所: 東京大学工学部 14号館 5階 501号室(中セミナー室)
https://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_04_15_j.html
講演者: 佐藤 峻 (東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻)
講演題目:保存/散逸則をもつ微分代数方程式の勾配構造とそれに基づく離散勾配法
講演概要:
本講演では,微分代数方程式(DAE)に対する構造保存的数値解法を取り扱う.
常微分方程式(ODE)に対する構造保存数値解法の豊富な研究に比べると,
DAEに対する研究はその複雑さから未だ進んでおらず,近年でも拘束条件つき
Hamilton系に限定した議論が主流である.しかし,本研究では,より一般の
保存/散逸則をもつDAEを対象にした適用範囲が広い構造保存的数値解法の構築を
試みる.
ODEや発展方程式(時間変数をもつ偏微分方程式,無限次元版のODEとみなせる
ものが多い)はしばしば物理的背景に付随した保存/散逸則をもつ.このような
場合には,保存/散逸則を尊重した数値解法を利用することで,Runge—Kutta法に
代表される汎用解法に比べて質的に良い数値解を得られることが理論的にも経験的にも
確認されてきた.保存/散逸則を離散化後にも再現する手法は各種存在するが,
ODEの勾配構造に基づく離散勾配法はその中で最もよく利用されているものであり,
理論的な研究も進んでいる.この背景には「勾配構造」の表現力の高さがあり,
有限次元・無限次元を問わず勾配構造で保存/散逸則を説明できるという事実に
立脚して,「ODEに対する離散勾配法」の統一的なフレームワークが形成されている.
一方で,実際のモデリングにおいては,ODEに拘束条件が付随したDAEが得られる
ことも多い.拘束条件つきの機械系やある種の発展方程式はその好例であり,
ODEの場合と同様にしばしば保存/散逸則をもつ.この種の問題に対しても,
個別の工夫を駆使して保存/散逸則を満たす数値解法が利用されてきた.しかし,
統一的な視点からの研究は成されておらず,DAE版の「勾配構造」すら未定義である.
このため,保存/散逸則をもつ一般のDAEに対して,保存/散逸則を離散化後に
継承できるか否かは不明であった.
本研究では,DAEに対する離散勾配法の統一的なフレームワークの構築を目指し,
DAEにおける勾配構造の定義から開始し,それに基づく離散勾配法を構築する.
実は,DAEにおける保存/散逸則はODEの場合に比べて格段に複雑であり,
一般のDAEに対する離散保存/散逸則の継承は非常に困難である.しかし,本研究では,
ある種のクラスのDAEに対しては保存/散逸則と拘束条件を同時に満足する数値解法を
構成可能であることを示す.
講演では,本研究で導入した各種の概念や主要な結果を説明するとともに,
研究の背景や主結果の含意に関して俯瞰する.