「最適モデリング」セミナー案内 (9/2)

「最適モデリング」セミナー案内 (9/2)

日時: 2015年9月2日(水) 16:30–17:30
場所: 東京大学工学部 14号館 5階 534号室
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_04_15_j.html

講演者: 松井 千尋(東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻)
題目:  量子スピン鎖におけるスピノン励起とその組み合わせ論的構造
概要:
 量子力学における物理系はハミルトニアンと呼ばれるエネルギー演算子に
応じて時間発展するため、その対角化は重要な問題である。多くの物理系では
ハミルトニアンを厳密に対角化することは困難であるが、一次元磁性体の
モデルである量子スピン鎖はそのハミルトニアンの厳密な対角化が可能な
数少ない系の一つである。
 量子スピン鎖におけるハミルトニアンが対角化可能なのは、多体散乱が
二体散乱に分解できるという事実に基づく。これは、代数的には散乱行列が
Yang-Baxter方程式を満たすという事実に対応している。Yang-Baxter方程式の
解はいくつか知られており、その中でも今回はUq(sl2)に付随するものを
紹介する。Uq(sl2)とはsl2をq変形して得られるホップ代数の一種であり、
q->1の極限でsl2となる。散乱行列がYang-Baxter方程式を満たす系では、
ベーテ仮設法と呼ばれる方法を用いることによりハミルトニアンの固有ベクトルを
構成することができる。ベーテ仮設法では、各固有ベクトルはreference stateと
呼ばれるUq(sl2)のhighest weight vectorに下降演算子を作用させることで
構成できる。
 このように、ベーテ仮設法から構成される固有ベクトルは代数的には非常に
わかりやすいが、一方でreference stateが物理的真空に対応しておらず、
reference stateから得られる固有ベクトルが物理的にどのような励起状態を
表しているのかわかりづらいという問題点があった。また、連続極限を考える
場合、reference stateは無限次元表現のhighest weight vectorに対応するため、
そのままでは固有ベクトルの構成が困難であった。

 今回の講演では、物理的な真空に粒子を生成することで固有ベクトルを得る方法を
提案する。この方法は、1992年にHaldaneらによって提案された励起粒子が張る空間の
直積分解 [1] を高次元表現の場合に拡張したものである。電子と同じspin-1/2を
持つスピンから成る系は、代数的にはUq(sl2)の基本表現を用いて議論できる。一方、
鉄錯体などの系は任意のspin-sを持ち、これはUq(sl2)の高次元表現を用いることで
記述できる。spin-1/2の系における固有ベクトルはYoung図形を用いて特徴付けられるが、
任意のspin-sの系における固有ベクトルを完全に特徴付けるにはYoung図形に加えて
RSOSというpath自由度を決定する必要がある。1996年にArakawaらによって導入された
path basis [2] を用い、spin-sの系における固有ベクトルとYoung図形+RSOS pathを
1対1で対応付ける。この対応関係から、ベーテ仮設法で得られる固有ベクトルの
物理的解釈を明らかにする。
 以上の結果により、離散系と連続系との対応関係がより明瞭になり、連続系のみで
定義されていた超対称性が離散系でどのような意味を持つのかも明らかになると
期待できる。

参考文献
[1] F. Haldane et al. Phys. Rev. Lett. 69 (1992) 2021
[2] T. Arakawa et al. Comm. Math, Phys. 181 (1996) 157